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大分家庭裁判所杵築支部 昭和29年(家イ)38号 審判

申立人 木元イシ(仮名)

申立人 木元ミチ子(仮名)

相手方 木元吉広(仮名)

主文

相手方木元吉広は申立人木元イシに対し金六万円を支払うべし。

相手方木元吉広は申立人木元ミチ子方に復帰して同人と同居し同人等家族を扶養すべし。

理由

申立人等の陳述の要旨は相手方は昭和○○年○月○○日申立人木元ミチ子と婚姻し同月○○日相手方夫婦は、申立人木元イシと養子縁組をなして右イシ家に於て同居して農業に従事して居たが、昭和○○年○月頃相手方は、申立人イシ名義の居村内共有林の売却配当金六万円を入手するや之をイシに引渡さずそのまゝ生家に赴いて、帰宅しないので、申立人等は村内村田喜作を介して帰宅を促したところ、相手方は一度帰宅したが二、三日後に自己の衣類を全部持出して再び生家に赴いたまゝ帰宅しない。以上の事実によれば、相手方は再び申立人家に帰ることはないから、申立人イシとの養子縁組並申立人ミチ子との婚姻関係を解消し、且つ相手方が不当に持出した金六万円をイシに支払い申立人ミチ子と相手方間に出生した長男和美が義務教育を終る迄一ヶ月千円の扶養料を請求すると云うのであつた。

之に対して相手方は申立人ミチ子との間に長男和美を出生しており、養家を去るとか夫婦離別とかの考えは毛頭なく家出したのは一時の感情からのことであり、六万円の金を受取つたのは、相手方に於て部落共有林の出費を負担したから自己のものであると信じた為めであるが、右金員を自己に於て随意に費消する考えはなく養家の家屋修理等に使用する目的で所持して居ると主張した。

調停委員は両者を各別に種々説得を試みたところ、申立人等も離縁離婚の主張をやめ相手方の復帰を承諾し、相手方は六万円をイシに引渡し、養家に復帰して家族を扶養することを承諾したので、調停は成立することになつたから調停委員会は暫らく休憩の上双方を招いて調停成立の旨を告知せんとしたところ、相手方は突如として、前言を食み六万円を引渡さゞる旨を言張りそのため終に調停は不成立に帰したのである。然しながら相手方の右食言はその真意でなく休憩時間中に相手方に同行せる近親者の圧迫のため、心ならずも斯る態度に出たことが該食言の際に於ける言動より窺知されるし、申立人等に於ても相手方が復帰して、農業に専念し円満な生活を送ることに異議はないのである。以上の次第であるから当裁判所は諸般の事情を考慮し調停委員の意見を徴した上、主文の通り審判する。

(家事審判官 岡崎与六)

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